■ 移住者の声
フリーランス/イラストレーター
AZYさん
気の向くままに、自由に働き暮らす

東京都出身のイラストレーター、AZY(アジー)さん。
イギリスの大学に留学し、イラストを学ぶとともに、インスピレーションに影響を与える周囲の自然環境の大切さを実感した。
帰国後は英語の講師として働きつつ、長期休暇を利用して移住先を探すため全国各地を巡る。
知人のアーティストさんからの誘いで和歌山県を訪れたことをきっかけに、古座川町への移住を決意。
東京などとの遠隔での仕事を中心にイラストを描きながら、地域の方々との縁を紡ぎ、自分にフィットした暮らし方を重ねている。
「自分がそこで暮らしているイメージができる場所」
直感を信じて決めた古座川町への移住。
和歌山県に移住するまでの経緯を教えてください。
AZYさん:ずっと移住したいと思っていて、一人旅が好きだったので、土地の雰囲気を感じつついろんなところを回っていました。なかなか、自分がそこで暮らしているイメージのできる場所が見つからなかったんですけど、たまたま知り合いのアーティストさんで和歌山県出身の方がいて、遊びにおいでよと言ってくれたのをきっかけに訪れたのが最初です。
大阪とも近いですし、海もきれいで山もあって「こんなに雰囲気がいいところがあるんだ」と思いました。祖父が大阪府出身というのもあって関西に魅力を感じていたのか、和歌山に来た瞬間にビビッと感じるものがありました。イラストレーターとして活動するなかでも、インスピレーションのために環境が大事ということはわかっていたので、「ここに住む!」と直感的に決めてしまいましたね。

検索エンジンで「和歌山、移住」で調べるとすぐに「わかやまLIFE(※1)」さんが出てきて、オンラインの移住相談会などもしていたので、すごく入っていきやすかったです。本当に、とんとん拍子に決まっていきました。
※1「わかやまLIFE」:和歌山県の移住や定住に関する情報を集約したポータルサイト。
和歌山県のなかでも、古座川町に決めた理由は何ですか?
AZYさん:最初は「わかやまLIFE」さんの「しごと・暮らし体験(※2)」を活用して、田辺市や串本町へ行ったんです。その合間で、当時の「和歌山県ふるさと定住センター(※3)」の方に紀南をぐるっと案内していただいたんですけど、そのなかでも特に古座川町の自然の豊かさが印象的でした。それが古座川町を知ったきっかけです。
都会のほうが人が多いので、たくさんの出会いがあるという楽しみはあります。一方で、周囲の環境として利便性が良過ぎる場所は、自分にとっては東京での生活と大きな違いを感じなくて。串本町や古座川町に来たときに、ちょうどいい田舎感というか、安心できる感覚があった気がしますね。
※2「しごとくらし体験」:和歌山県内の登録事業者のもとで、短期間おためしで仕事をしながら暮らしを体験できるプログラム。
※3「和歌山県ふるさと定住センター」:平成14年から令和5年に渡り、和歌山県での暮らしに関心のある方の現地案内等を行っていた組織。

イギリスに留学していたそうですが、当時の経験も移住に関係しているのですか?
AZYさん:イギリス南部のブライトンという街で、中心地から歩いて海に出られるほど海とともに暮らしがあり、少し足をのばしたら森や丘などの雄大な自然がある、落ち着いた雰囲気の街でした。そこで自然というものがインスピレーションに大事なんだっていうことを学びました。イギリスでの三年間はすごく貴重な財産ですね。
帰国してからは英語の講師として働きながら、貯めたお金で作品をつくったり、生徒と同じように長期休みがあるので、その間にいろんなところへ行きました。旅というより、その土地で暮らす感覚で毎回長期滞在していましたね。それで最終的に和歌山に移住したいと思った感じですかね。
「お互いが自分の時間を過ごしている」
地域の人とのほど良い距離間と、一人になれる場所。
移住先での生活に期待していたことは何ですか?
AZYさん:自然に囲まれたいというのはあった気がしますね。 東京に住んでいた当時は意識していませんでしたが、今思い返すとどこへ行っても人や物であふれていて、周りはコンクリートに囲まれ、常に情報がガヤガヤと飛び交っているような状態でした。近くに公園はありましたが、結局一人になれる場所が少ないというか。それに疲れちゃったのかなという気がします。
古座川町ではそもそも人が少ないので、たとえば川へ行けばずっと一人で静かに景色を眺めていられますし、誰かに声をかけられることもありません。 散歩をしているおじちゃんとかはいますが、そこで会話が生まれるわけでもなく、お互いが自分の時間過ごしているような感じがありますね。

住居はどのように見つけましたか?
AZYさん:家探しのために東京から二回来ました。一回目はあまりピンとくるところがなく、二回目は串本町の不動産屋さんにお願いしたり、「和歌山県ふるさと定住センター」のサポートで古座川町役場を通して物件を見させていただいたりして、合計で8軒くらい一気に回りました。
そのなかの最後の一軒が、改修が必要な古民家とかではなくいわゆるふつうの一軒家で、人が住んでいた形跡を感じないくらいに、水回りを含めて本当にきれいな状態だったんです。そこで自分が住んでいるイメージがすぐにできたので、持ち主の方と連絡を取ってそのまま契約しました。
留学のときもそうですが、何かを決めたらすぐそこに熱量を注げてしまうんです。だから家探しのときも「絶対に見つけてやる!」みたいな気持ちで臨んだら、実現したという感じですね。

移住してみて驚いたことや、想定外だったことはありますか?
AZYさん:夏に引っ越してきたので、いきなり台風シーズンに突入したんです。家のなかにいても雨の音がダイレクトに伝わってくる感じがして、東京にいた頃と比べると怖さがあるというか。今はもう慣れましたが、雷にしても、動物の声にしても、自然の音があまりにも身近過ぎて、大自然の威力に圧倒されるような感覚がありました。天気のいい日は、海や川へ行くと気持ちがいいじゃないですか。でも、その側面だけを見て自然豊かな場所へ行きたいって言っても、雨や嵐があっての地球の循環なので、そこを知らなかったのが最初に戸惑いを感じたところかもしれないです。
利便性の面では何も不便はしてないです。宅配も来ますし、郵便局もあってわりと行き届いてますね。スーパーとかも、歩いてすぐのところになきゃいやだというタイプでもないので、ほんと、自然のほうが印象的でしたね。
「気の向くままに、人との縁を紡いで仕事ができれば」
フリーランスの良さを活かした、心に素直な暮らし方
フリーランスのイラストレーターをされているということですが、なにか仕事面の変化はありましたか?
AZYさん:自分と向き合う時間が多くなった分、制作の幅が広がったと思います。テーマをじっくり考えて作品に落とし込もうとするときに、時間も体力もあるので熱量を注ぎやすいというか。東京では実家暮らしだったので、人の出入りがあってバタバタしたり、友だちとご飯に行ったりして時間を使っていました。古座川町だといい意味で隔離されているので、制作にじっくりと集中できる点でも適した環境なのかなと思います。
古座川町に来て、普段どのように仕事をしていますか?
AZYさん:移住してしばらくは東京からメールやDMなどでお仕事の依頼をいただいていたので、あまり古座川町で仕事をしている感覚がありませんでした。でも最近は地域の方の名刺を作らせてもらったり、観光協会さんのポストカードを作らせていただいたりと、お仕事での地域との繋がりを持てるようになってきました。
やっぱり地域で仕事を受けるって、繋がりありきじゃないですか。なので人と交流できる場所にどんどん出向いていかないといけないなと思います。

現在は都市部とのリモートでの仕事が多く、また海外でのイベント出展もされているAZYさんですが、今後はどのように活動していく予定ですか?
AZYさん:和歌山県内でのお仕事をもっと増やせたらと思っています。大阪や東京まで出ていくとなると、移動距離があるので少し腰が重い感じがしますが、県内なら知人も各地にいますし、車でイベント出展とかにいけたら楽しいだろうなと思います。なおかつ、オンラインでいただいているお仕事も好きですし、自分の制作もしたい。飽き性なのでいろいろなことをしつつ、同時進行ではなくてその時々の状況や自分のフェーズに合わせて、クリエイティブのアウトプットを変えていくイメージです。
友だちと会うなど、制作とは関係のない時間も大切です。時間を自由に組み立てられるのはフリーランスならではですよね。一定の給与があるわけではないのでリスクもありますが、やっぱり田舎暮らしは出費が少ないのが大きな利点だと思います。
生活費のなかで一番ネックになるのは家賃だと思うのですが、都会だと固定費だけで最低でも十数万円かかるところを、こちらでは頑張れば月5万円くらいに抑えることができます。なので、収入の不安定さもそこまでリスクとは感じず、気の向くままに縁を紡いで仕事ができていけたらなと思っています。

【編集後記】
長く暮らしていると慣れてしまいますが、太平洋に面し、紀伊山地が連なる紀南地方の雨には、やはりほかの地域とは一線を画す迫力があります。AZYさんの感性をもとに紡がれる言葉から、「大自然の威力」や「一人になれる場所がある」といった当地域の特徴や魅力に、あらためて気づかせていただきました。